本人棄却と他人許容
さらなる確認といった場合はあるにせよ、生体認証は最終的には許容か棄却 かという結論を下すことになります。なおそんな一連の判断の中では、必ずし も生体認証だけを行うのではなく、所有認証や記憶認証と組み合わせるという ことも当然ありえます。
子やぎたちは優しい声を出した狼に対して、まだ結論は保留し、今度は腕を 見せてもらいました。おかあさんの腕は白いのですが、狼の腕は真っ黒です。 それで一度は棄却します。しかし今度は腕まで白くしてきた狼に対して、つい に本物のおかあさんと勘違いして扉を開けてしまうのです。つまり誤った生体 認証をしてしまうのです。
こういった誤りを避けるため、おかあさんが「いいこと、誰が来ても決して 開けちゃダメよ」と言い残して出かけたとしましょう。そして物語とは違い、 狼よりも前に帰宅したとしましょう。この時に、おかあさんが鍵を持っていて 子やぎたちの判断とは関係なく中に入れるなら、特に問題はありません。しか しドアチェーンのように外からは鍵で開けられない場合、おかあさんは子やぎ たちに対し、「おかあさんだから入れておくれ」ということになります。しか し子やぎたちの側から見ると、それが狼でないという保証はありません。何し ろ「誰が来ても決して開けちゃダメよ」と言われているのです。本当のおかあ さんは外で、「何いってるの、本当に私なんだから開けておくれよ」というで しょうが、子やぎたちはそれを信用できません。結局おかあさんは家の中に入 れず、外でこごえ死んでしまうかもしれません。これも誤った生体認証です。
狼なのに扉を開けてしまうのも誤りだし、おかあさんなのに扉を開けないの も誤りです。しかし両者はある意味で逆の誤りです。前者の誤りは他人許容と 呼ばれます。本当は他人なのに本人と思い込んでしまうわけです。後者の誤り は本人棄却と呼ばれます。本当は本人なのに他人と思い込んでしまうわけです。 どちらも避けたい誤りですが、そう上手くはいきません。例えば「誰が来ても 決して開けない」という方針を固持すれば、他人許容は防げますが、本人棄却 も必ず起きてしまいます。逆に「おかあさんを名乗りさえすればすぐに開ける」 なら、本人棄却は起きませんが、他人許容も防げないことになります。実際の システムではどちらも完全にゼロにはできないわけで、それが起こりうる確率 を、本人棄却率や他人許容率として評価します。目的により、その両方を満足 できるレベルまで下げることが、腕の見せどころとなります。
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